法人成りの税金を比較|個人事業主とどっちが得か分岐点を徹底解説

私は税理士事務所で12年、法人設立や決算申告を年間50件以上見てきました。そのうえで自分も合同会社を作っています。建前ではなく「実際いくら手取りが変わるか」で判断するのが一番です。
この記事では、所得税の累進税率と法人実効税率の差、消費税が2年間免税になる仕組み、社会保険の負担増、そして役員報酬別の手取り試算まで、判断材料を順番に出していきます。
法人成りで税金はどう変わる?個人事業主と法人の比較早見表

まずは全体像から。個人事業主と法人では、課される税金の種類も計算方法もまったく違います。ここを押さえないと「どっちが得か」は判断できません。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 所得への課税 | 所得税(5〜45%の累進税率)+住民税+個人事業税 | 法人税(標準23.2%/年800万円以下は15%)+法人住民税+法人事業税 |
| 赤字でも発生する税 | 原則なし | 法人住民税の均等割(原則発生) |
| 消費税 | 基準期間の課税売上高1,000万円超で納税義務 | 新設法人は原則1〜2期目が免税となる場合あり |
| 経費にできる役員報酬 | 不可(事業主の取り分は経費にならない) | 可(役員報酬として経費計上できる) |
| 赤字の繰越期間 | 青色申告で3年 | 原則10年(青色申告の欠損金繰越) |
所得税の累進税率と法人実効税率の対比
個人事業主の所得税は超過累進税率で、国税庁の税率表では5%〜45%の7段階です。所得が増えるほど税率が上がる仕組みになっています。
一方、法人税の標準税率は23.2%。さらに資本金1億円以下の普通法人なら、年800万円以下の所得部分は15%に軽減されます。
つまり利益が大きくなるほど、頭打ちのある法人税のほうが有利になりやすい。これが法人成りの基本的な節税ロジックです。
経費にできる範囲の違い
地味ですが大きいのが、自分への給与を経費にできるかどうか。個人事業主は事業の儲けがそのまま自分の所得で、自分の取り分を経費にはできません。
法人は自分への報酬を「役員報酬」として経費にできます。会社の利益を圧縮しつつ、個人側では給与所得控除も使える。この二段構えが効くんです。
赤字を繰り越せる期間の違い
赤字(欠損金)の繰越期間も差があります。青色申告の個人事業主は3年、法人は原則10年。
立ち上げ初期に赤字が出やすい事業なら、10年使える法人のほうが将来の黒字と相殺しやすい。長期で見ると無視できない違いです。
社会的信用力と資金調達のしやすさ
税金以外の話ですが、現場で一番効果を実感するのはここです。法人は登記情報が公開され、取引先や金融機関からの信用を得やすい。
BtoBの取引や、まとまった融資を狙うなら法人格があるだけで土俵に乗れる場面があります。逆に個人相手の小規模事業なら、ここはそこまで気にしなくていい。
法人成りで得られる節税メリットを項目別に比較
ここからは、法人にしたときに具体的にどう得するかを項目別に見ていきます。私が「これは大きい」と感じた順に並べます。

消費税が2年間免税になる仕組みとインボイス制度の注意点
消費税は、原則として基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が発生します。新設法人には設立1期目・2期目に基準期間がないため、最大2年間免税になることがあります。
これは個人で売上1,000万円超を続けてきた人が、法人成りで税負担を一旦リセットできる、という意味です。正直、ここが法人成りの一番おいしいポイントになる人は多い。
ただし落とし穴があります。資本金1,000万円以上で設立した場合や、設立時から適格請求書発行事業者(インボイス)に登録した場合は、初年度から消費税の納税義務が生じます。
さらに、設立1期目の前半6か月の売上または人件費(役員報酬含む)が1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になります。「2年間まるまる免税」と思い込むと痛い目を見ます。
役員報酬による所得分散で手取りを最大化する方法
法人成りの肝は役員報酬の設定です。会社の利益を役員報酬として個人に移すと、会社の法人税課税所得が減り、個人側では給与所得控除が使える。
報酬を取りすぎれば個人の所得税・住民税が累進で重くなり、取らなさすぎれば会社に利益が残って法人税がかかる。このバランス取りが手取り最大化のカギです。
退職金制度を使った節税効果
個人事業主には基本的にできず、法人だからできるのが役員退職金です。退職所得は税負担が軽く設計されているため、長期的に見ると大きな節税枠になります。
在職中の役員報酬を抑えつつ、退職時にまとめて受け取る。私が法人化を勧めるとき、利益が安定している人にはこの出口戦略をよく説明します。
家族への給与(事業専従者給与と役員報酬)の違い
家族に給与を払って所得を分散する手は個人でも使えますが、個人事業の専従者給与は「専従(その事業に専ら従事)」という縛りが厳しい。
法人で家族を役員にすれば、役員報酬として支給しやすく、所得分散の自由度が上がります。世帯全体の手取りを増やしたいなら法人のほうが組みやすい。
法人成りで増える負担とデメリットを正直に比較
メリットだけ並べる記事は信用できません。法人成りには、利益が少ない人ほど効いてくる固定コストがあります。ここは正直に書きます。

赤字でも発生する法人住民税の均等割
一番こたえるのがこれ。法人住民税の均等割は、赤字でも原則として発生します。儲かっていなくても払う、というのが個人事業との決定的な違いです。
最低額として年7万円程度が示されることがありますが、これは自治体・資本金・従業員数で変わります。設立予定地の自治体の税率表を必ず確認してください。
社会保険の強制加入と保険料負担シミュレーション
法人は社会保険(健康保険・厚生年金)が強制加入です。保険料は会社と個人で折半しますが、会社負担分も結局はあなたの会社のお金。実質的には全額が手取りを削る要因になります。
役員報酬を高く設定するほど保険料も上がります。後述の試算で、報酬設定別に会社・個人合計のコストがどう動くかを示します。
決算・申告など事務負担の増加
法人の決算申告は、個人の確定申告とは比べものにならないほど複雑です。法人税・法人住民税・法人事業税・消費税と、扱う申告書が一気に増えます。
自力でやるのは現実的でない人がほとんど。ここで税理士に頼むことになり、それが次のランニングコストにつながります。
税理士顧問料などランニングコストの年間総額
法人を維持するには固定費がかかります。代表的なのが法人住民税の均等割と、税理士の顧問料・決算料です。
具体的な金額は契約内容や規模で変わるため、ここでは「要確認」とします。少なくとも均等割(自治体ごとに要確認)+顧問報酬は毎年出ていく、と見ておけば間違いありません。
私の実感では、利益が薄い段階で法人化すると、この固定費が節税メリットを食い潰します。ここはデメリットの方が大きいと正直に言っておきます。
法人成りのベストなタイミングを利益と売上から判断する

「結局いつ法人にすればいいのか」。これが一番聞かれる質問です。判断軸は2つ。利益水準と課税売上高です。
年間利益800万円が分岐点と言われる根拠
税理士・会計事務所系の記事では「所得が1,000万円程度を超えると法人化が有利になりやすい」という目安がよく示されます。ただしこれは制度上の一律基準ではありません。
根拠の一つは法人税の軽減税率。年800万円以下の所得部分は15%で済むため、この帯までの利益を法人に置くと税率の差が効いてきます。
公的に「この所得から法人が有利」と定めた基準は存在しません。だからこそ、目安を鵜呑みにせず自分の数字で試算する必要があります。
課税売上高1,000万円超えで検討すべき理由
前年以前から課税売上高が1,000万円を超えている人は、消費税の免税メリットを取りに行く価値があります。法人成りで最大2年間の免税期間を狙えるからです。
利益はまだそこまでなくても、売上が大きく消費税負担が重いなら、タイミングとして検討の手が早く動きます。
業種・地域による判断の違い
判断は業種と地域でも変わります。仕入や外注が多く課税仕入が大きい業種は、免税のメリットの出方が違う。原価がほぼない業種ほど免税の恩恵は大きくなります。
地域差は法人住民税均等割に現れます。自治体ごとに均等割の額が異なるため、同じ規模でも維持コストは住む場所で変わります。設立地の税率表確認は必須です。
【独自試算】役員報酬の設定別に税金・社会保険・手取りを比較
ここが他の記事との違いです。役員報酬をどう設定するかで、会社と個人を合わせた負担と手取りは大きく動きます。考え方の枠組みを示します。

具体的な保険料率や税額は年度・自治体・扶養状況で変わるため、ここでは金額の断定はせず「どこを見て調整するか」に絞ります。正確な試算はシミュレーションツールや税理士で確認してください。
| 設定方針 | 会社側への影響 | 個人側への影響 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 報酬を低く設定 | 会社に利益が残り法人税の対象が増える/社会保険料は抑えられる | 個人の所得税・住民税・保険料は軽い/手取りは抑えめ | 会社に資金を貯めたい・将来の投資や退職金原資を作りたい人 |
| 報酬を高く設定 | 会社の利益(法人税の対象)は減る/社会保険料の会社負担は増える | 給与所得控除は使えるが累進で所得税・住民税が増える/保険料も増える | 当面の生活資金を多く手元に置きたい人 |
役員報酬を低く設定した場合の会社・個人合計コスト
報酬を低く抑えると個人の税・保険料は軽くなりますが、会社に利益が残るぶん法人税がかかります。会社にお金を貯めて再投資や退職金に回したい人向けの設定です。
役員報酬を高く設定した場合の手取りの変化
報酬を上げると給与所得控除は効くものの、累進税率と社会保険料が同時に重くなります。一定ラインを超えると「上げたのに手取りが思ったほど増えない」帯に入ります。
私が試算するときは、会社の法人税・個人の所得税住民税・社会保険料(会社負担含む)の合計が最小になる帯を探します。多くの場合、極端な高低ではなく中間に最適点があります。
後悔しがちな失敗例と回避のポイント
私が実際に見た失敗で多いのが、自分ひとりで設立して役員報酬を「なんとなく」で決めてしまうケース。役員報酬は原則として期の途中で自由に変えられません。
設立直後にエイヤで決めた報酬が高すぎて、利益が出ないのに保険料と税金だけ重い――そんな相談を何度も受けました。最初の設定を税理士と詰めるだけで、この後悔はほぼ防げます。
法人成りをおすすめする人・おすすめしない人
立場をはっきりさせます。法人成りは万人向けではありません。利益と事業の方向性で、勧める人と止める人が分かれます。

法人化が向いている人の条件
利益が安定して大きい人、課税売上高が1,000万円を超えていて免税メリットを取りたい人、法人格で信用を得たい人、まとまった資金調達や優秀な人材の採用を考えている人。こういう人には私は法人化を勧めます。
法人化を急がない方がよい人の条件
逆に、利益が少ない人、事業拡大を予定していない人には待つよう言います。赤字でも均等割がかかり、社会保険と顧問料の固定費が利益を上回りかねないからです。
ここは正直、デメリットの方が大きい。節税どころか持ち出しになるなら、個人事業のままが賢明です。
個人事業へ戻す場合の手続きとコスト
法人にしたあと「やっぱり個人に戻したい」となると、解散・清算の手続きが必要で、登記費用や清算事務の手間がかかります。設立より戻すほうがずっと面倒です。
だからこそ「迷ったら作る」ではなく「数字で決めてから作る」。戻すコストを考えると、入口の判断を慎重にする価値は十分あります。
個人事業の資産・負債を法人へ引き継ぐ方法と税務の注意点

法人成りでは、個人事業で使っていた資産や負債を法人へ移します。ここを雑にやると、思わぬ税金が出ます。
消費税や譲渡所得が発生するケース
在庫や設備などの資産を法人へ売却(譲渡)する形で引き継ぐと、個人側で消費税の課税対象になったり、資産によっては譲渡所得が生じたりします。
とくに個人が課税事業者だった年に資産を法人へ売ると、その売却に消費税がかかる点を見落としがち。引き継ぎ方法は税理士と決めるのが安全です。
引き継ぎ手続きの流れ
大まかには、引き継ぐ資産・負債を洗い出し、評価額を決め、法人との間で売買や現物出資などの形を選び、契約書と帳簿に記録する、という流れです。
事業用の許認可がある業種は、許認可の引き継ぎ可否も同時に確認してください。ここを忘れて法人で営業できない、という事故が起きます。
よくある質問(FAQ)
最後に、法人成りの税金比較でよく一緒に調べられる質問をまとめます。

よくある質問
迷っているなら、まず自分の直近の利益と課税売上高をメモしてください。その2つの数字があれば、法人成りが得か損かはかなり絞り込めます。あとは設定と手続きを専門家と詰めるだけです。
