法人化は売上いくらから?所得900万円・1,000万円が目安の理由
- 売上いくらから法人化すべきかに、公的な一律の基準は存在しない。
- 判断の中心は売上ではなく『課税所得900万円』。ここで個人の所得税率が法人税率を上回りやすくなる。
- 個人事業主は基準期間(原則2年前)の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が生じる。
- 株式会社の設立には登録免許税が最低15万円、合同会社は最低6万円かかる。
- 赤字でも法人住民税の均等割(標準例で年7万円)はかかる。
私は税理士事務所で12年、法人設立や決算申告を年間50件以上担当してきました。その後フリーランスになり、自分自身も合同会社を作った当事者です。だからこそ言えるのは、『売上1,000万円を超えたら即法人化』という巷の説明は雑だということ。実際は手取りで何円変わるかを試算しないと意味がありません。
法人化 売上 いくらからの結論

法人化を検討する目安は、売上ではなく課税所得が900万円を超えたあたりです。
なぜ売上額で語られがちなのに、所得で見るべきなのか。理由はシンプルで、税金は売上ではなく『売上から経費を引いた所得』にかかるからです。売上2,000万円でも経費が大きければ所得は少なく、税負担も軽い。逆に売上800万円でもほぼ経費がなければ所得は高くなります。
ただし、もう一本の軸があります。消費税です。売上が1,000万円を超えると、所得の多寡に関係なく消費税の納税義務が絡んでくる。この2つの軸を分けて考えるのが、つまずかないコツです。
年収いくらから法人化すべき?
年収(≒課税所得)でいうと、900万円を超えてくると法人化による節税メリットが出やすくなります。

個人の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が上がります。課税所得900万円を超えると、所得税と住民税を合わせた負担が法人税率を上回る場面が出てくる。これが『900万円』という数字がよく語られる根拠です。
ここで注意したいのは『年収』という言葉の曖昧さ。会社員でいう年収(額面の給与)と、個人事業主の課税所得はまったく別物です。フリーランスの方は『売上−経費−各種控除』で出した課税所得で考えてください。ここを誤解したまま法人化すると、思ったほど得しません。
正直に言うと、私が相談を受けるとき一番多い勘違いがこれです。『年商1,200万あるから法人化したい』という方の経費を見たら、課税所得は400万円台。この水準だと法人化のうまみは薄く、むしろ社会保険料や均等割でマイナスになることもあります。
所得900万円以上で所得税が法人税を超える
課税所得が900万円を超えると、個人の所得税率帯が法人税率を上回りやすくなり、法人化で税負担を抑えられる可能性が出てきます。

中小法人には、所得800万円以下の部分に軽減税率が適用される場合があります。ただし適用には要件があるため、自社が対象になるかは確認が必要です。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 課税対象 | 事業所得(累進課税) | 法人所得(比例的な税率+軽減税率の枠) |
| 所得が増えたとき | 税率が段階的に上がる | 一定水準で頭打ちになりやすい |
| 所得800万円以下 | 累進の中で課税 | 中小法人の軽減税率が適用される場合がある |
私の実感では、課税所得900万円はあくまで『検討開始ライン』です。900万円ちょうどで急いで法人化する必要はありません。1,000万〜1,200万円あたりで安定して推移しそうなら、本気で動く。それくらいの温度感がちょうどいいと思っています。
売上1,000万円超で消費税の支払いが発生

個人事業主は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えると、原則としてその年の消費税の納税義務が生じます。
ここでの『基準期間』は、個人事業主なら原則として2年前です。つまりある年の課税売上高が1,000万円を超えると、原則として2年後に課税事業者の判定へ反映されます。タイムラグがあるのがポイントです。
ただし、法人を設立しただけで消費税が必ず免除されるわけではありません。新設法人でも、資本金1,000万円以上の法人などは設立当初から課税事業者になります。『法人化=2年間消費税ゼロ』という説明は、条件付きだと覚えておいてください。
さらにインボイス制度が2023年10月1日に始まりました。適格請求書発行事業者になるには登録申請が必要で、登録すると登録日から消費税の納税義務が生じる場合があります。取引先がインボイスを求めるなら、売上1,000万円未満でも登録・法人化を検討するケースが出てきました。
この記事をお読みの方におすすめのガイド4選
法人化の判断には、税金以外に『設立費用』『手続き』『補助金』『先輩の失敗談』の4つの情報が役立ちます。

ここでは私が実務で『これは事前に読んでおくと損しない』と感じる観点を4つ、外部の解説とあわせて整理します。どれも法人化前に一度は目を通しておきたい内容です。
| 観点 | 何が分かるか | 急ぐべき人 |
|---|---|---|
| 設立費用 | 登録免許税・定款認証などの初期コスト | 資金繰りがタイトな人 |
| 設立手続き | 定款作成から登記までの流れ | 期日までに法人化したい人 |
| 補助金 | 会社設立時に使える支援制度 | 初期投資を抑えたい人 |
| 先輩の体験談 | 実際に困ったポイント | 初めて法人を作る人 |
会社設立時に決めることチェックリスト
会社設立では、商号・事業目的・本店所在地・資本金・役員・決算期の6項目を最低限決めておく必要があります。

これは私が自分の合同会社を作ったときに、実際に書類へ落とし込んだ項目です。特に資本金と決算期は後悔ポイントになりやすい。
- 商号(会社名)を決める。使える文字や類似商号に注意する。
- 事業目的を決める。将来やる予定の事業も入れておくと定款変更の手間が減る。
- 本店所在地を決める。自宅にするか賃貸にするかで許認可や郵便対応が変わる。
- 資本金を決める。1,000万円以上にすると設立初年度から消費税の課税事業者になる点に注意。
- 役員と任期を決める。家族を役員にするかどうかも含めて検討する。
- 決算期を決める。繁忙期と重ならない月にすると申告作業が楽になる。
資本金を1,000万円以上にすると、新設法人でも初年度から課税事業者になります。消費税の免税を狙うなら、ここは安易に盛らないこと。私は決算期を設立月から1年近く先に設定して、初年度の経理に余裕を持たせました。
補助金をまるっと理解!会社設立時の補助金ガイド

会社設立時の補助金・助成金は制度ごとに対象や金額が大きく異なるため、設立前に最新の公募要領を確認するのが鉄則です。
正直に言うと、補助金は『もらえたらラッキー』くらいの位置づけで考えるのが安全です。採択率や時期によって左右されますし、後払いが基本なので一時的な資金は自分で用意する必要があります。
具体的な金額や要件は年度で変わるため、ここで断定的な数値は書きません。検討する場合は、設立前に対象になる制度があるかを専門家や公式の解説で確認してください。法人化の判断を補助金ありきで進めるのは、私はおすすめしません。
法人成り手続きまるわかりガイド
法人成りの手続きは『定款作成→公証人による認証→登記申請』が基本の流れで、株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円の登録免許税がかかります。
費用の中身を分解すると、ここが一番イメージしやすいと思います。実際に私が支払った内訳に近い構成で、公式情報をもとに整理しました。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 資本金×0.7%(最低15万円) | 資本金×0.7%(最低6万円) |
| 定款認証手数料 | 資本金額に応じ3万〜7万円 | 原則不要 |
| 定款の収入印紙 | 紙は4万円/電子定款なら不要 | 紙は4万円/電子定款なら不要 |
私は合同会社を電子定款で作りました。理由は単純で、株式会社より登録免許税が安く、定款認証も不要で、収入印紙4万円も電子化で省けたからです。一人社長で外部出資が要らないなら、合同会社で十分というのが私の立場です。
起業家1,040人への調査でひも解く!先輩起業家が一番困ったことガイド
設立で見落とされがちなのは、赤字でもかかる法人住民税の均等割と、役員報酬に伴う社会保険料の負担です。

私は調査の具体的な数値を持っていないので、件数の話は控えます。代わりに、私が現場で『これに困った』という相談を一番多く受けた2点を挙げます。どちらも法人化後にじわじわ効いてくるコストです。
1つ目は法人住民税の均等割。赤字でも納める必要があり、標準税率の例として年7万円が示されています。利益が出ていなくても固定で出ていくお金です。
2つ目は社会保険。法人になると役員・従業員に社会保険が適用される場合があり、役員報酬に応じた保険料負担が発生します。個人時代の国民健康保険・国民年金より重くなるケースは珍しくありません。法人化のコスト比較では、この社会保険料を必ず計算に入れてください。
【年収別】法人化による節税効果の違い

法人化の節税効果は所得が高いほど大きくなり、所得800万円前後が『検討の入り口』、1,500万〜2,000万円帯で効果がはっきりしてきます。
具体的な節税額は、家族構成・役員報酬の設定・経費の中身で大きく変わります。だから一律の『◯円得する』という数字は出せません。ここでは私が実務で見てきた、所得帯ごとの『感触』を正直に書きます。
| 課税所得の目安 | 法人化の検討度 | コメント |
|---|---|---|
| 800万円 | △ 入り口 | 軽減税率の境目。社会保険料負担と相殺されやすく、慎重に試算したい |
| 1,000万円 | ○ 検討開始 | 税率の逆転が見え始める。安定して超えるなら前向きに |
| 1,500万円 | ◎ 効果あり | 役員報酬・所得分散の設計で差が出やすい |
| 2,000万円 | ◎ 効果大 | 対策の幅が広く、法人化しないほうが損になりやすい |
法人化の節税の柱は、役員報酬を経費にできること、給与所得控除が使えること、家族への役員報酬で所得を分散できること、そして赤字を最大10年間繰り越せることです。青色申告法人の欠損金は原則10年間の繰越控除ができ、個人事業の繰越より長い。これは見落とされがちな利点です。
所得800万円
課税所得800万円は『法人化を考え始めてもよいが、まだ得とは限らない』微妙なラインです。
理由は、節税で浮くお金と、新たに発生する社会保険料・均等割が拮抗しやすいから。この水準で『周りが法人化したから』と流されると、手取りが減ることすらあります。
